メールマガジン

□■ 八ッ場ダム 見学記(にわかダムラーの八ッ場歩き) □■ (2017年12月三笠産業メールマガジン vol107-3)

 11月17日、待ちに待ったヤンバツアーズの日がやって来ました。きっかけは今年の夏のこと、旅のついでにどこか面白いところはないかと思案していると、建設中のダムがあるのを思い出しました。早速ダムのホームページを見てみると、工事事務所が主催する無料見学ツアー*1があるではありませんか。これに参加しない手は無いとあわてて予約表を見ると、7月の始めにもかかわらずすでに土日は年末まで埋まっており、7,8月は平日も予約はすでに一杯、そこで紅葉狩りをかねてこの日のツアーを申し込んだのです。
まずは最初の目的地の『八ッ場見放台*2』を目指します。関越自動車道を渋川・伊香保ICで降りて30kmほど走り、岩島駅を過ぎて松谷の交差点に差し掛かると、道路を跨ぎ吾妻川を渡るモダンな橋が姿を現します。これが新たに作られたJR吾妻線の『第二吾妻川橋梁』です。
 
第二吾妻川橋梁
 
 吾妻線はダムが完成すると、ダム下流の岩島駅から上流の長野原草津口までの間で約6kmが水没します。そこで旧吾妻線と川を挟んだ向かい側に新線が付け替えられ、この第二吾妻川橋梁とダムの上流側の第三吾妻川橋梁*3が誕生しました。松谷の交差点からさらに車を進めると間もなく、道はロマンチック街道と八ッ場バイパスの二手に分かれます。そのまま真っ直ぐ八ッ場バイパスを走りトンネルを抜けて200mほど進んだT字路を左折すれば、八ッ場見放台の駐車場に到着です。
 
八ッ場見放台               骨材貯蔵タンクコンクリートプラント
 
 見放台から吾妻川下流を眺めると、左手の土手の上には骨材貯蔵タンクとコンクリートプラント,そしてはるか下の方に、目指す八ッ場ダムがありました。
現場 遠景
 
 見放台からのダム見物もそこそこに、『道の駅八ッ場ふるさと館』にある見学ツアー事務所に向かいます。受け付けを済ませて暫らくすると、ピカピカのツアー専用マイクロバスがやってきました。税金のムダ遣いではなどと野暮なことは考えず、参加者20名は皆いそいそとバスに乗り込みます。いよいよツアーの始まりです。最初の目的地の『なるほど!やんば資料館』で、参加者は案内役の小野寺さん*4から八ッ場ダムの歴史と概要について説明を受けました。
 現在の日本で堤体の高さ100mを超える大規模ダムのコンクリート工事は、ここ八ッ場だけです。完成すれば端から端までの堤頂長さは290m、高さは116mと33階建てのビルに相当します。満水時の貯水量は約1億トンで、これは東京ドーム87杯分に匹敵します。堤体に加わる水圧は90万トンに達し、重力式*5の八ッ場ダムは、この力を堤体の重量だけで支えます。堤体の元となるコンクリートは通称「究極のコンクリート」と呼ばれているそうです。骨材には3種類の大きさ*6に分けた安山岩が使われます。各骨材は専用プラントで生産され、廃線となった旧吾妻線の線路上に作られた長さ10kmのベルトコンベアで八ッ場まで運ばれた後、粒径毎に専用タンクに貯蔵されます。コンベアの途中には3Dセンサーがあり、運ばれてくる骨材の粒径に間違いが無いか常に監視しています。これほど厳重な管理をする理由の一つは、計算通りの堤体重量にダムを作り上げるためです。二つ目の理由は、使用するセメントの量を極力少なくすることにあります。セメントは硬化する時に収縮し、これが亀裂の原因となります。そこで収縮を最小限に抑えつつ設計重量を確保するために、セメントを極力少なくして骨材だけで密な構造としたコンクリートが使われます。これが究極のコンクリートです。
 ではこれだけの労力を費やして八ッ場ダムを作る目的*7は何でしょうか。話は昭和22年にまでさかのぼります。この年『キャサリン(カスリーン)台風』による大雨で利根川が決壊し、流域に甚大な被害が発生しました。このような災害を防ぐために、昭和27年 治水対策*8として利根川支流の吾妻川へのダム建設が計画され、一時的な中断期間を挟みながら現在に至ります。
 資料館での説明が終わると、お待ちかねのダム見学へと移ります。用意されたヘルメットをかぶり通行証を首からさげた一行は、ダム右岸*9の現場入口から見学場所へと移動しました。現場では平成31年度の完成を目指して着々と作業が進められています。11/17現在の進捗率は約40%との説明を受けました。工事は『清水建設・鉄建・IHIインフラシステム』の3社によるJV*10で進められ、完成後は関東地方整備局により管理されます。岩盤まで削り取られたダムの左岸・右岸の壁面は滑らかに仕上げられていました。その表面の完成後のダムの形を表す2本の青い線(黄色の線の内側です)を見ると、改めてその大きさを実感させられます。
左岸                         右岸
 
 左右の壁の上には支柱が建てられ、その間に渡されたワイヤーロープを伝って2基の18トンクレーンがコンクリートを満載したバケットを休む暇なく運んでいました。
左岸側支柱            18トンクレーン            右岸側支柱
 
 バケットから吐き出されたコンクリートは、ブルドーザーと大型振動ローラーで次々とならされて行きます*11。ダムはこのようにして1mの高さを積み重ねて、1日当り430名の作業員が24時間体制でこの作業を116回繰り返すと、計画された高さの堤体になります。中央をみると、上流側(写真左側)に鉄骨で支えられた巨大な四角形のパイプ状の物体が見えました。そして堤体にも一回り小さい筒状の物体が2本あり、その先には工事用ダンプとほぼ同じ大きさの四角い穴が開いています。ここにはほどなく水位調整のゲートが設置されるそうです。これらは洪水吐*12へと繋がり、しばらくするとダム内部に埋設されて外部から見られなくなるので、建設中の限られた期間しかお目にかかれません。この日の見学者は、大変な幸運に恵まれていました。
取水口
 
 しかし、楽しい時間はあっという間に終わりを迎えます。ツアー参加者は、後ろ髪を引かれる思いでバスに乗り、現場を後にしました。
 この見学ツアーでは、つかの間ですが大規模なダム工事を間近で見る、貴重な経験が出来ます。あるいはツアーに参加しなくても、見放台からダムとその周辺を眺めるだけで八ッ場を満喫できます。さらに足繁く通えば日々変化する堤体が観察できます。そしてなによりもダムカード*13が手に入ります。今はツアー記念に頂いたカードを眺めつつ、夜の八ッ場見学にいつ行こうかと思案中です。この記事をご覧になった皆さんも、ぜひ八ッ場ダムへ行ってみませんか。今しか味わえない貴重な体験ができますよ。(運が良ければ、天然記念物のニホンカモシカに会えるカモ…。)
八ッ場大橋よりニホンカモシカを見下ろす
 
*1 八ッ場ダムの下記ページで予約状況を確認できます。
   八ッ場ダム工事事務所ホームページ:http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/index.htm
*2 『みほうだい』と読みます。
*3 第一吾妻川橋梁は吾妻線の開業当初に作られました。岩島駅より吾妻川のさらに下流にあるので、ダムの影響は受けません。
*4 小顔の可愛いお嬢さんですが、ダムの知識の豊富なれっきとした国土交通省の方です。目下の悩みはクリスマスも八ッ場から離れられないこととか。
*5 ダムには幾つかの種類があり、各々記号で表されます。
① A:アーチ式コンクリートダム - 河川両側の堅固な岩盤に水圧を分散させて支えるダムです。
   例:群馬県『矢木沢ダム』、福井県『真名川ダム』など
② B:バットレスダム - 水を遮る壁(遮水壁)を垂直に扶壁で支えるダムです。
   例:群馬県『丸沼ダム』、岡山県『恩原ダム』など
③ CSG:台形CSGダム - 日本で近年開発された型式のダムです。
   例:北海道『三笠ぽんべつダム』
④ E:アースフィルダム - 台形状に盛り土を行って建設されるダムです。
   例:埼玉県『山口ダム』(ダム湖は狭山湖です)など
⑤ G:重力式コンクリートダム - ダムの自重を利用して水圧を支えるダムです。
   例:『八ッ場ダム』、群馬県『下久保ダム』、静岡県・愛知県『佐久間ダム』など
⑥ GA:重力式アーチダム - 重力式とアーチ式の両型式の特性を備えたダムです。
   例:埼玉県『二瀬ダム』、山口県『阿武川ダム』など
   『黒部ダム』は両岸に重力式のウイングダムを配置しその間をアーチ式ダムとした特殊な構造なので、
   『GA』ではなく『A+G』で表わされています。
⑦ GF:複合型ダム - 重力式と、アースまたはロックフィルダムが複合したダムです。
   例:北海道『忠別ダム』、岩手県『御所ダム』、沖縄県『辺野喜ダム』など
   北海道『当別ダム』、沖縄県『金武ダム』のみ完成・運用中です。
⑧ HG:中空重力式コンクリートダム - ダムの堤体内が空洞になっている重力式コンクリートダムです。
   例:北海道『金山ダム』,新潟県『内の倉ダム』,静岡県『井川ダム』など
⑨ MA:多連式アーチダム(マルチプル アーチダム) - 複数のアーチが連なるダム型式です。
   宮城県『大倉ダム』,香川県『豊稔池ダム』の2ヶ所のみです。
⑩ R:ロックフィルダム - 土砂と岩石を主体として建設されるダムです。
   例:埼玉県『有間ダム』、岩手県『胆沢ダム』、大阪府『安威川ダム』など

⑪ FG:堰 - 利水目的で堤の高さが15m以上をダム、15m未満のものを堰と言います。
   例:茨城県『利根川河口堰』
⑫ FA:アスファルトフェイシングフィルダム - ダム本体表面に遮水壁が設けてあるタイプを表面遮水壁型と呼びます。遮水壁にはコンクリート、又はアスファルトが使用されます。
   例:栃木県『沼原ダム』など
⑬ FC:コンクリートコアフィルダム - 堤の中心(コア)部がコンクリートやアスファルトで形成されたロックフィルダムを言います。
   例:北海道『武利(むり)ダム』
*6 G1,G2,G3の3種類の骨材を使用します。粒径は以下となります。
   G1:80~40mm
   G2:40~20mm
   G3:20~5mm
G1骨材                      G2骨材           G3骨材
 
*7 ダムの用途も記号で表されます。
   ① F:洪水調節
   ② N:不特定利水(河川の正常な流量の維持)
   ③ A:灌漑
   ④ W:上水道
   ⑤ I:工業用水
   ⑥ P:発電
   ⑦ S:消・流雪用水
   ⑧ R:レクリエーション(ボート競技での水位維持など。)
*8 八ッ場ダムには治水以外の用途もあります。*7を参考に、ダムカードをご覧下さい。
八ッ場ダム ダムカード
 
*9 ダムを川の上流から見て、右手を右岸,左手を左岸と言います。
*10 『Joint Venture(ジョイントベンチャー)』の略語です。大規模で技術難度の高い工事を、安定的に施工するために結成された共同企業体を指します。
*11 この日の現場で見られたたコンクリートバイブレーターは、重機の先に取り付けられた4本でした。
重機に取り付けられたコンクリートバイブレーター
 
*12 『こうずいばき』と読みます。丸パイプの2本が常用洪水吐の取水口で、四角は水位維持用放流設備の取水口です。
八ッ場ダム 構造図
 
*13 建設中の八ッ場ダムが印刷されたダムカードがもらえます。11月より新バージョンになりました。写真は『*8』をご覧ください。ツアーに参加しなくても、専用の用紙に『見放台』『資料館』『道の駅八ッ場』の3ヶ所のスタンプを押して『八ッ場ふるさと館』の窓口に差し出すと、ツアーと同じカードがもらえます。他にふるさと館で『ダムカレー』を注文するとオリジナルのカードがもらえます。
ダムカレーとダムカレーを食べるともれなく貰えるカード
 
 他にもカードを配布しているダムは、たくさんあります。旅の途中に寄り道してはいかがでしょうか。荒川水系制覇,利根川水系制覇など楽しみ方はいろいろです。ただし平日しか配布しないダムもありますし、そもそも配布していないダムもありますので、配布場所・配布時間・配布日を事前に確認して下さい。

終りに
①カードを貰う時に対応して下さる職員の方々は、お仕事中ということを忘れないでください。
②ダムの多くは道幅の狭い山間部にあります。車で行かれる時は、運転には十分気を付けて下さい。
③ダム訪問のついでにダム湖周辺を散策するのも楽しみ方の一つです。但し一部には熊の出没する地域もありますので、くれぐれも注意して下さい。
④下流側から見上げるダムは、なかなか迫力があります。但し突然放流する場合もありますので、サイレンが聞こえたら大急ぎで退避して下さい。
⑤ダムによっては内部を見学できるダム(例:埼玉県『浦山ダム』『滝沢ダム』等)もあります。国土交通省並びに各県のホームページから、ダム関連のページを捜してみて下さい。
⑥ダムに行ったら、ぜひダムカレーも味わって下さい。カードの他に『堤体を模したご飯の下に穴を開けて放流(くれぐれも決壊させないでください。)』『カレーだけを食べて渇水』など、いろいろな食べ方が楽しめます。
工事用ダンプカーのタイヤと著者
 
品質管理部技術サポート室 西牧 記
 
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